明るくカラフルで、陽気な死者の国を舞台に、世代を超えて繋がる家族の絆を描いた、2018年3月公開のピクサー映画『リメンバー・ミー(Remember Me)』。
この映画の題材ともなった“死者の日(Day of the Dead)“は映画から見て分かるように、「故人を悼む悲しい日」ではなく、明るくカラフルで陽気な祝日のひとつ。
死者の日“とは、日本でいうお盆のような風習ですが、そこには日本とはまた違った死生観があるようです。
The day of the dead (死者の日)ってどんな日?
メキシコをはじめとするラテンアメリカで“死者の日“は、ハロウィン後の11月初めに1年に1度だけ、亡くなった家族や友人に再会できる特別な日として盛大に祝われます。
特にメキシコ・オアハカでの死者の日の祝祭は世界的に有名で、この時期にはメキシコならではのユニークな雰囲気が存分に味わえると世界各地から観光客が訪れます。
毎年死者の日にはすでに亡くなった家族や友人など親しい人の魂が帰ってくると言われ、死者の魂を迎え祈りを捧げます。
特に11月1日は「小さな天使の日(Dia de Los Angelitos)」と言われ、子供の魂が帰ってくる日、そして2日が大人の魂が帰ってくる日だとされています。
この死者の日を祝う習慣は、スペイン統治時代よりずっと昔3000年以上も続く古い歴史を持っており、2003年にはユネスコ無形文化遺産に指定されました。
「死者を弔う日」とはいっても、死者の日はとても明るく陽気なお祝いの日。
1年でたった1度亡くなった人も含め、家族全員が集う喜ばしい日と捉えられていて、特にメキシコでは毎年各地でパレードが行われカラフルなガイコツに仮装した人々が街を歩きます。
明るく色鮮やかに!陽気な死者の日の祝いかた
死者との再会を家族など親しい人全員で喜び合うのが「死者の日」。人々はどのようにこの日を祝うのでしょうか。
死者の日を象徴する「カラベラ」を飾る
死者の日のモチーフと言えば、カラフルなガイコツ、カラベラ(calavera)。
この時期が近づくと、街はカラフルに飾りつけられ、陽気なガイコツであふれます。
人形やオブジェはもちろん、この時期にはスーパーや市場で売られる、お菓子やスナックもガイコツ型になります。
「オフレンダ」という祭壇が飾られる
死者の日の1週間ほど前から、家の前や店の前など町のいたるところに「オフレンダ(ofrenda)」という祭壇が飾られます。
オフレンダは死者が休憩、食事するところとされており、花や果物、お菓子、ロウソクなどで鮮やかに飾りつけられます。
なかには1年かけてこの祭壇のために準備をする家庭もあるほど、とても大切にされているものです。
お墓を賑やかに飾り付け、食べ物などを供える
故人のお墓も同様に、花や果物のほか、故人の好物だった食べ物などを供え、鮮やかに飾りつけられます。
また、メキシコでおなじみのテキーラ、タコスやワカモレなどを供えるのもおなじみです。
死者の日には、家族でお墓の周りに集まって、お酒を酌み交わしたり、食事をしながら、1年に1度の再会を喜び、楽しい時間を過ごします。
墓地に「マリアッチ」と呼ばれる音楽隊を呼んで、お墓の前で演奏してもらったりもするのだそう。
死者の魂を迎える日とはいえど、彼らにとってはあくまで大切な人との再会を祝う明るい日だと捉えられているのですね。
それぞれに意味がある!死者の日に飾られるもの
お墓や祭壇に飾られる花やお供え物には、それぞれに意味があり、祖先より受け継がれたルーツがあります。
マリーゴールド
お墓や祭壇に飾られるマリーゴールドは「死者の花」とも言われ、死者の通る道を明るく照らし、お墓や祭壇まで導いてくれると信じられています。
モチーフのガイコツ(カラベラ)
カラフルにデコレーションされたガイコツは今や、メキシコを象徴するひとつのスタイルとなっていますよね。
メキシコでは昔から、亡くなった人の骸骨を飾る習慣があり、その名残から祭壇や、町中のいたるところにガイコツの人形やオブジェが飾られます。
パン・デ・ムエルト(Pan de Muerto)
祭壇やお墓には「死者のパン」という名前の菓子パンも供えられます。
パンの中にはオレンジピールなどの柑橘系が練りこまれており、これは死者に対する敬意を表しているのだとか。
死者の日のシーズンになると、スターバックスの季節限定メニューとして売られたりもします。
骸骨の形をした砂糖菓子やチョコレート
死者の日のモチーフである、カラフルなガイコツを模した砂糖菓子やチョコレート。
毎年さまざまなデザインのものがスーパーなどに並びます。
お墓や祭壇へのお供えが終わると、このお菓子やチョコレートは食べられるのですが、「死者(を模した菓子)を食べることにより、死者の魂を癒す」という意味があるのだそう。
「死があるからこそ生きていられる」メキシコ人の死生観とは
「死は恐ろしいもの、悲しいもの」。私たちが「死」にもつイメージはネガティヴなものが多いですよね。
しかし死者の日から見て分かるように、メキシコ人にとって「死」とはもっとポジティブで身近なものなのです。
彼らにとって死が身近なのは、先祖から続く、死の捉え方に由来しています。
彼らの祖先、アステカ文明の人々にとって「死」は、生きることの延長線上にあるものでした。
死ぬことは、“終わり“を意味するのではなく、また新しく生まれ変わるための“ひとつのステップ“で、死んでもなお、その命は続いていると考えられています。
映画『リメンバー・ミー』からも分かるように、例え亡くなってもその人は天で生きていると彼らは信じているのです。
死者の日は明るく生きるメキシコ人のスピリットを表す
「死」が終わりでないからこそ、生きる過程のひとつであるからこそ、
メキシコの人々は死をより身近な当たり前のものとして捉え、明るく陽気に暮らすことができるのかもしれません。
メキシコは世界的に見ても、自殺率が最も低い国のひとつ。
WHOの自殺率調査結果によると、2015年のメキシコの自殺率は日本の4分の1程度。
世界各地の人々が「死者の日」を体験したいと思うのは、
ただ異文化に触れたり、珍しい祭りを味わいたいというだけではなくて
死を明るく捉え、生きている今の瞬間を精一杯楽しもうとするメキシコ人の姿そのものに魅力を感じるのかもしれませんね!