たまにふらっと立ち寄りたくなる近所の古本屋さん。店主の目利き力が存分に発揮されたセレクトが楽しくて仕方ないんですよね。
もっぱら私のお気に入りは、色んなジャンルの雑誌のアーカイブたち。流れが早い雑誌刊行、何年か前の号に自然に出会うことはほぼ難しいからこそ、出会った時のときめきはひとしおです。
そんな古本屋さんである時、偶然みつけたカルチャー誌「pen」の2009年8/1号。
そこにあった巨匠ゴーギャンについての美術特集が、その時カナダから日本に一次帰国したばかりだった私に、「文化を受け継ぐ」ことについて、じーんと心に響くある学びを与えてくれました。
『ゴーギャンを探しに、美しきタヒチへ』(pen 2009 8/1号)
毎号ひとつのテーマを独自の切り口から特集する「pen」の2009年8/1号は『プロが選ぶ、究極の1冊。』がメインテーマ。第二特集として『ゴーギャンを探しに、美しきタヒチへ』がありました。
この特集は、日本を代表するクリエイティブディレクターの箭内道彦さんが、地上最後の楽園タヒチを旅しながら、画家ゴーギャンの傑作の軌跡を追うというもの。
ゴーギャンの絵の裏側にある彼の人生や思いなどがクリエイターならではの視点から切り取られていて、思わず読みふけってしまったのですが、そのなかにあったゴーギャンの孫タイ・マルセルさんの言葉に私は胸を打たれました。
祖父の傑作のレプリカを収集するマルセルさんの言葉
タヒチにはゴーギャンの作品が一点も残されていないため、孫のマルセルさんは祖父ゴーギャンの絵の「複製画」を150点も自宅の一室にコレクションしているのだそう。(当時)
複製画は友人の画家に描いてもらい、額縁は祖父ゴーギャンへのリスペクトを込めて自らひとつひとつ作っているというマルセルさん。
そんな彼は、あえて祖父ゴーギャンの描いた絵の”レプリカ”を集める理由についてこう語っていました。
「祖父ゴーギャンの本物の絵を見たときに、”何かしなくては”と思って。
イタリアとチェコの画家にわざわざ依頼してレプリカを書いてもらっているが、画家たちが絵を模写するとき、彼らは祖父を思う。
“どう描こう、どう筆を置こう”と考えるその行動が祖父のスピリットをこの世に再生させる。
絵が本物である必要なんてない。僕は僕なりの方法で祖父の魂を生かし続けます。」(penより要約)
「真似る」作業から受け継がれるもの
マルセルさんがコレクションを続けることにより、誰かが「真似る」という作業を通して、ゴーギャンの表現者としてのスピリットを受け継ぐ。
これって見かけ以上に貴重な活動だと思います。
絵を観る側ではなく「描く側」のスピリットは、例えば線のタッチだったり、筆圧だったり、絵を描くプロでなければ見えないことがあります。
そしてそれらはマルセルさんが「レプリカコレクション」という手段を利用するからこそ受け継がれるもの。”絵は原作しかだめだ” と型に捉われていたら、今世まで伝わっていなかったかもしれません。
大切な文化を「受け継ぐ」ということ
この「型に捉われず、自分なりの方法で文化を守り継ぐ」という作業は、これから私たちが日本の伝統文化しかり、世界にある大切な文化の数々を繋いでいく上でとても大切な”スピリット”。
良いものを残していくには、どんなものでも色んな角度から眺めて、時にはこの時代だからこそできる方法で、様々な可能性を探り受け継いでいくことが必要なんだ、とマルセルさんから学びました。
そしてマルセルさんとはまた違ったかたちで「語り継ぐ」にひと役かっている「pen」の特集。その貴重な雑誌を私に見つけさせてくれた古本屋さん。
そんな小さいけど奥深いカルチャースポットは、やっぱり大切にしていきたいと思うのでした。